2型糖尿病への第一選択薬に関して

目次

経口薬の第一選択と使用動向 (メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬 など)

  • DPP-4阻害薬 (グリプチン系): インクレチン分解酵素を阻害することで内因性GLP-1を高め、食事に応じたインスリン分泌を促進する薬剤です。東アジア人では欧米人よりもHbA1c低下効果が高いとの報告が複数あり、日本を含むアジア各国で非常に広く使われています。
    実際、日本のデータでは2型糖尿病初期治療におけるDPP-4阻害薬の処方割合が常に60%以上で最も多く、2位のビグアナイド薬(メトホルミン等)や3位のSGLT2阻害薬を大きく上回っています。
    特に日本では患者の半数以上が65歳以上と高齢であることから、安全性(低血糖リスクの低さ)を重視してDPP-4阻害薬が選択されやすいことも指摘されています。DPP-4阻害薬単独では重篤な低血糖がほぼ起きないため、高齢者にも使いやすく、JDSも高齢者への推奨薬として安全性に着目しています。さらに日本人ではインスリン分泌能低下・比較的非肥満という病態が多く、このような病態には食後高血糖を是正しインスリン分泌を補うDPP-4阻害薬が合致するため、初期治療で選ばれやすいとも考えられます(Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)。
    欧米ではDPP-4阻害薬はメトホルミンに次ぐ第二選択肢の一つとして位置付けられます。体重に中立的で低血糖も少ない利点がありますが、心血管リスクや体重減少効果といった付加的メリットは示されていないため、肥満や心血管疾患を有する患者ではGLP-1作動薬やSGLT2阻害薬が優先される傾向があります。
    一方、腎機能が低下した患者や高齢者で他剤が使いにくい場合に重宝され、西欧でも低血糖回避が重要なケースではDPP-4阻害薬が選択されます。近年は欧米でも新規薬剤の台頭でDPP-4阻害薬のシェアはやや縮小傾向にありますが、依然有用な経口薬の選択肢です。
  • SGLT2阻害薬: 尿細管におけるブドウ糖再吸収を抑制し、余剰なブドウ糖を尿中に排泄させる薬剤です。2014年頃から登場した比較的新しいクラスで、血糖降下に加えて体重減少効果や血圧低下効果が得られる点が特徴です。とりわけ過去5年で注目すべきは、心血管と腎臓への保護効果に関するエビデンスの蓄積です。大規模臨床試験により、SGLT2阻害薬は心不全の悪化や腎症進行を独立して抑制しうることが示されました(Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)。
    例えばEMPA-REG試験やCANVASプログラムでは、心血管イベントや腎アウトカムの有意な改善が報告されています。これらの結果を受け、心不全や慢性腎臓病を合併する2型糖尿病患者には、SGLT2阻害薬をできるだけ早期から併用することがADA/EASDのコンセンサスやKDIGOガイドラインで強く推奨されています
    (First-Line Therapy for Type 2 Diabetes With Sodium–Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists: A Cost-Effectiveness Study – PMC)。
    米国でも2013~2019年の初期治療使用率は数%と低かったものの年々増加傾向にあり、とくに心血管疾患を持つ患者で積極的に使われるようになっています
    (Trends in First-Line Glucose-Lowering Drug Use in Adults With Type 2 Diabetes in Light of Emerging Evidence for SGLT-2i and GLP-1RA – PMC)。
    欧州心臓病学会(ESC)でも2019年のガイドラインで「動脈硬化性疾患を有する糖尿病患者ではメトホルミンよりSGLT2阻害薬/GLP-1作動薬を優先しうる」と言及するなど
    (Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)、欧米での位置づけがここ数年で大きく高まった薬剤です。
    日本でもSGLT2阻害薬の処方は急増しており、2010年代後半には初期治療での使用割合が一気に拡大しました。
    もっとも日本糖尿病学会は高齢者では脱水や腎機能低下に注意が必要としており
    (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)、高齢の患者では処方控えめになる傾向があります。総じてSGLT2阻害薬は肥満傾向でインスリン抵抗性が強い患者や心腎リスクの高い患者に優先的に使われ、体重減少効果も活かした治療戦略(食事・運動療法との相乗効果)が期待されています。
  • その他の経口薬:
    • **スルホニル尿素薬 (SU剤)**は膵β細胞からのインスリン分泌を促進する古典的薬剤ですが、低血糖リスクと体重増加のデメリットがあり、近年は初期治療で避けられる傾向です。米国でも2019年時点で初期治療のSU処方は5~8%程度
      (Trends in First-Line Glucose-Lowering Drug Use in Adults With Type 2 Diabetes in Light of Emerging Evidence for SGLT-2i and GLP-1RA – PMC)と減少し、日本でも初期処方は4%前後まで低下しています
      (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)(以前はもっと高率でしたが漸減傾向。
      ただし経済的理由で新規薬が使えない場合や、インスリン分泌が極度に低下している場合に追加する選択肢として残されています。
    • チアゾリジン薬 (TZD; ピオグリタゾンなど)はインスリン抵抗性を改善する薬剤で、肥満型糖尿病に有効ですが体重増加や浮腫、心不全悪化のリスクから使用は限定的です。欧米では心不全合併例には禁忌とされ、日本でも同様の注意喚起があります。近年はむしろSGLT2阻害薬でインスリン抵抗性改善と心腎保護を狙うことが多く、TZDの出番は減っています。
    • α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボースやアカルボース等)は炭水化物の消化吸収を遅らせる薬で、食後高血糖の改善に用いられます。日本や中国などアジアで比較的よく使われますが、初期治療の主役となることは少なく、他薬剤に追加する形で用いられることが多いです(日本の初期処方では5%未満
      (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC))。
    • グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)は食直前に服用し食後高血糖を抑えるSU類似薬ですが、作用時間が短いこと以外はSUと同様の懸念があり、近年はあまり使用されません。

注射製剤の第一選択と使用動向 (GLP-1受容体作動薬 など)

  • GLP-1受容体作動薬 (GLP-1 RA): インクレチンホルモンであるGLP-1の作用を模倣する注射薬です(近年、一部は経口剤も開発されています)。過去5年で注射療法の第一選択として位置付けが大きく向上した薬剤で、ADAやEASDの推奨では「インスリンを始める前にGLP-1作動薬を検討すべき」と明記されています
    (Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)。
    その理由は、GLP-1作動薬が
    基礎インスリンと同等の血糖降下効果を発揮しつつ、低血糖リスクがより低く、体重減少という付加効果をもたらすためです。
    例えばリラグルチドやセマグルチド、デュラグルチドといった薬剤は週1回投与製剤も登場し、使い勝手が向上するとともに、肥満を伴う糖尿病患者で平均5~10kgの減量効果が示されています。さらにLEADER試験(リラグルチド)、SUSTAIN-6(セマグルチド)、REWIND(デュラグルチド)など一連の心血管アウトカム試験により、GLP-1作動薬は心筋梗塞や脳卒中など主要心血管イベントのリスクを有意に低減することが証明されました。このエビデンスを受け、動脈硬化性心疾患を有する2型糖尿病患者には、HbA1cに関わらずGLP-1作動薬の使用を検討することが推奨されています
    GLP-1作動薬の使用率は欧米で年々増加しており、新規の経口セマグルチド (商品名リベルサス) の承認や、肥満症治療への応用(高用量セマグルチドやチルゼパチドの肥満適応)が話題になるなど、その役割は糖尿病治療を超えて広がっています
    日本においてもGLP-1作動薬は肥満傾向の強い患者やインスリン抵抗性が主体の患者に有用と位置付けられており、2023年にはGIPとGLP-1の二重受容体作動薬チルゼパチドが承認・上市され、JDSのアルゴリズムにも「肥満[インスリン抵抗性]」の患者への新たな選択肢として追加されました
    (日本糖尿病学会コンセンサスステートメント関連PDF)。
    もっとも、日本の実臨床データではGLP-1作動薬は初期治療で選択されることは稀であり
    (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)、まず経口薬で治療し効果不十分な場合に初めて注射薬として導入されるケースが多いのが実情です。
    これは費用や注射製剤への患者抵抗感なども影響していると考えられますが、欧米においても同様に、まずは経口薬で治療を開始し、必要に応じてGLP-1作動薬を追加する段階的治療が一般的です。
  • インスリン療法: インスリンは強力な血糖降下効果を持つ注射製剤で、1型糖尿病では必須ですが、2型糖尿病では**「最後の切り札」的な位置付けになります。ADAの標準治療ガイドラインでは、著明な高血糖や体重減少など糖毒性の症状がある場合、またはHbA1cが著しく高値(例えば10%以上)である場合には、初期からインスリン導入を検討するよう推奨されています
    (PDF: ADA Standards of Medical Care in Diabetes – 2024 (仮リンク))。
    しかし通常は、経口薬やGLP-1作動薬で十分な血糖コントロールが得られない場合に次段階として基礎インスリン療法を開始します。近年は「インスリンより先にGLP-1作動薬を試す」**戦略が確立されたため、インスリン開始までにGLP-1作動薬を挟むケースが増えました
    (Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)。
    それでもなお、インスリンは膵β細胞機能が高度に低下した患者や、他の薬剤で達成できない高い血糖値が持続する患者に不可欠な治療です。治療戦略としては、まず夜間の基礎インスリンから開始し、必要に応じて追加インスリン注射(強化インスリン療法)へと段階的に強化します。また、GLP-1作動薬との併用療法(例えば基礎インスリン+週1回GLP-1注射)は近年注目されており、相乗効果で血糖改善と体重管理を両立できるためガイドラインでも推奨され始めています
    (Glucose Mgt with Pharma & COPD updates – GovDelivery (仮リンク))。
    総じて、インスリンは重要な治療オプションですが、低血糖リスク管理や体重増加への対策(食事療法の徹底やGLP-1併用など)を講じながら用いることが求められます。

最新ガイドラインの推奨比較 (ADA/EASD vs JDS)

  • 米国ADAと欧州EASDのガイドライン: アメリカ糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は共同で2型糖尿病治療に関するコンセンサスレポートを定期的に発表しており、2018年・2019年・2022年に大きな改訂が行われました。これら欧米ガイドラインの基本方針は共通しており、「まず生活習慣の是正とメトホルミンで治療開始」という点が強調されています
    (Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)。
    メトホルミンで治療を開始した後は、患者個々の状況に応じて早期に薬剤追加・変更を検討します。特に重視されるのが動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全(HF)、慢性腎臓病(CKD)の合併です。2018~2022年のコンセンサスでは、「これらの合併症がある場合、A1c値にかかわらずメトホルミン単剤では不十分と考え、早期からSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の併用を優先する」ことが推奨されています
    (First-Line Therapy for Type 2 Diabetes With Sodium–Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists: A Cost-Effectiveness Study – PMC)。
    実際、ADA/EASD 2020年ガイドラインでは「心血管疾患や腎疾患を有する場合はメトホルミンと同時に、あるいは時にメトホルミンに先立ってSGLT2阻害薬/GLP-1作動薬を第一選択とする」旨が示されました。
    また、合併症がなくとも、治療目標に達しない場合の次の選択薬は患者の優先事項に応じて決めるとされています。例えば「低血糖を避けたい」が最優先ならDPP-4阻害薬やGLP-1作動薬、SGLT2阻害薬が候補に、「体重減少を図りたい」場合はGLP-1作動薬やSGLT2阻害薬が第一候補に、逆に「費用を抑えたい」場合は従来から安価なSU剤やTZDが検討されます。このように患者ごとのニーズ(優先事項)に合わせた個別化治療が欧米ガイドラインの特徴です。
    また注射薬については、前述の通り「まずGLP-1作動薬を試し、それでも不十分ならインスリンへ」というアルゴリズムになっており(Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)、強い高血糖症状がない限りいきなりインスリンを使うケースは減っています。
    ADAの標準治療ガイドライン(Standards of Care)は毎年更新されており、2023年版でも上述の原則が踏襲されています。例えばADA 2023では、2型糖尿病患者の初期治療において「包括的な心血管リスク管理」を組み込むことや、新たに承認された二重作動薬(チルゼパチド等)への言及などが追加されています。欧州のガイドラインもほぼ同様ですが、興味深い違いとして欧州心臓病学会(ESC)は2019年に「ASCVD患者ではメトホルミン開始前にSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を優先しうる」と踏み込んだ提言を行っており、心臓病学の観点からはより積極的にこれら薬剤を第一選択に据える考えも見られました。ただしADA/EASDの立場では「順番よりも適応(compelling indication)の有無が重要」とされており、結局は患者ごとに最適な治療を柔軟に選ぶアプローチに収斂しています。
  • 日本糖尿病学会(JDS)のガイドライン: 2022年にJDSは「2型糖尿病治療アルゴリズム(第2版)」というコンセンサスステートメントを公表し、日本に最適化した治療指針を提示しました
    (日本糖尿病学会コンセンサスステートメント関連PDF)。
    このアルゴリズム作成の背景には、「欧米とアジアでは肥満の程度も病態も大きく異なる」ため、日本を含むアジア人の特性に合った指針が必要との考えがあります。実際、世界の糖尿病人口の約1/3はアジアに集中しており、その多くが欧米人とは異なる病態(比較的低BMIで発症しインスリン分泌不全が目立つ)であることが知られています。
    JDSアルゴリズムはまず「インスリン治療の適応があるか」(劇症型や1型の鑑別、極端な高血糖の有無)を判断し、次に患者の年齢や低血糖リスクを踏まえて目標HbA1c値を設定した上で、4つのステップに沿って薬剤選択を行う構造になっています(医療者向け情報誌_糖尿病_2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(東京大学山内敏正先生)_医療費負担アンケート)。
    ステップ1では**「病態に応じた薬剤選択」と銘打ち、肥満・インスリン抵抗性が強い病態ならメトホルミン、SGLT2阻害薬、チアゾリジン薬、2023年からはチルゼパチドも追加**、逆に非肥満・インスリン分泌不全主体ならDPP-4阻害薬、GLP-1作動薬、グリニド、場合によってはSU剤やインスリンといった具合に、最初からメトホルミン一律ではなく日本人患者の多様な病態に合わせた柔軟な選択を推奨しています(Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)。
    ステップ2では安全性(腎機能低下例での腎排泄型薬の注意など)、ステップ3では治療効果や副作用、ステップ4では継続性や費用負担を考慮しながら治療を調整するという流れです。
    一見複雑ですが「まず病態を見極める」ことを重視しており、特に専門医以外の一般医にも使いやすいよう、BMIや腹囲、HOMA-β/HOMA-Rなど具体的な病態評価指標も提示されています
    (医療者向け情報誌_糖尿病_2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム)。
    心血管リスクの高い患者にはSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を積極活用する方針自体はADA/EASDと共通しており、その適用の仕方を「肥満・非肥満」等の病態軸で表現している点が特徴的です。

アジアと欧米における治療傾向・戦略の違い

  • 患者背景の違い: 欧米では2型糖尿病患者に肥満や高度のインスリン抵抗性を抱える人が多いのに対し、アジアでは非肥満でインスリン分泌不全が相対的に強い患者が多い傾向があります
    (医療者向け情報誌_糖尿病_2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム)。
    欧米人は内臓脂肪蓄積による代謝異常を背景に糖尿病を発症するケースが多いため、減量のインパクトが大きく、体重管理がより重視されます。一方、東アジア人では膵β細胞の予備能が低く、比較的軽度の肥満でも糖尿病になりやすいとされ、食後血糖の制御やインスリン分泌補助に重点を置く治療が選ばれやすいです
    (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)。
  • 処方パターンの違い: 米国の保険データ研究(2013~2019年)では、初めて糖尿病治療を開始した患者の約83%がメトホルミンを処方され、次いでSU、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1作動薬の順でした
    (Trends in First-Line Glucose-Lowering Drug Use in Adults With Type 2 Diabetes in Light of Emerging Evidence for SGLT-2i and GLP-1RA – PMC)。
    一方、日本のNDB解析では、初期治療の約60%以上がDPP-4阻害薬、ついでビグアナイド系(約16%)、SGLT2阻害薬(10数%)という順で、GLP-1作動薬やインスリンから開始するケースはごく少数でした
    (Retrospective nationwide study on the trends in first‐line antidiabetic medication for patients with type 2 diabetes in Japan – PMC)。
    また日本では、高齢になるほどDPP-4阻害薬が選択される割合が高く、逆にメトホルミンやSGLT2阻害薬は直線的に低下するとの報告もあり
    (医療者向け情報誌_糖尿病_2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム)、副作用リスクに対する慎重姿勢が反映されています。欧米では「高齢でも腎機能が許せばメトホルミンを使う」ケースが多く、このあたりにも地域差が見られます。
  • 治療目標・優先事項の違い: 欧米の治療では肥満・メタボリックシンドロームの是正や心血管アウトカムの改善が大きな柱となり、体重減少や心腎保護効果を持つGLP-1作動薬やSGLT2阻害薬の優先度が高いです。アジアでは高齢者が多いこともあり低血糖回避や安全域確保が重視され、DPP-4阻害薬への支持が高い傾向があります。しかし近年は日本でも心血管リスクが高い患者にはSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を早期導入する方向にシフトし始めており、最終的な治療目標は世界共通になりつつあります。処方傾向の差は、エビデンス解釈の違いというより患者背景(肥満度・高齢者割合)や医療制度、薬剤コストの違いに起因する面も大きいです。
  • 今後の傾向: 心腎保護や体重管理の重要性が世界的に共有され、新薬へのアクセスも拡大しているため、アジアと欧米の治療戦略は徐々に収束しつつあるとも言われます。一方で各地域の患者背景に合わせた柔軟性は維持されるため、日本では今後も**「まずDPP-4阻害薬」「あるいはインスリン抵抗性が強いならメトホルミンやSGLT2阻害薬」といった選び方が残るでしょう。今後は遺伝的背景や腸内細菌叢なども含むPrecision Medicine**が発展し、より個別最適化された治療が期待されています。

過去5年間の臨床試験・メタ分析・実臨床データの動向

  • 心血管アウトカム試験(CVOT)の成果: SGLT2阻害薬ではEMPA-REG(エンパグリフロジン、2015年)、CANVAS(カナグリフロジン、2017年)、DECLARE-TIMI58(ダパグリフロジン、2019年)などで心不全による入院リスクの大幅低減や腎機能悪化抑制が示されました。GLP-1受容体作動薬でもLEADER(リラグルチド)、SUSTAIN-6(セマグルチド)、REWIND(デュラグルチド)で主要心血管イベント(MACE)の発生抑制が証明され、心血管・腎保護を目的とした薬剤選択がガイドラインでも強調されるようになっています。
    これに伴い、**「A1c値にかかわらず心腎リスクの高い患者にはSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を導入」**というパラダイムシフトが起こりました。
  • 早期併用療法のエビデンス: 2019年のVERIFY試験では、新規2型糖尿病患者に初期からメトホルミン+ビルダグリプチンの2剤併用を行うと、従来のステップアップ療法に比べ長期にわたって良好な血糖コントロールを維持できることが示されました
    (Standards of Care Updates from the ADA | DiaTribe)。
    これを受け、患者の重症度や合併症リスクに応じて初期から2剤併用を検討する戦略も広がりつつあります。
  • 新規薬剤・デバイスの登場: 経口GLP-1作動薬セマグルチド(リベルサス)やGIP/GLP-1二重作動薬チルゼパチド(SURPASS試験でHbA1c大幅低下・著明な体重減少を示す)が注目されています。特にチルゼパチドは肥満を伴う2型糖尿病にとってゲームチェンジャー的存在と期待され、日本でも2023年に承認・ガイドライン組み込みが進みました
    (日本糖尿病学会コンセンサスステートメント関連PDF)。
    今後、初期治療からGLP-1受容体作動薬を併用するケースも増えていくと予想されます。
  • 実臨床データ・メタアナリシス: 各国レジストリや保険データを用いた解析で、SGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を導入した患者の心血管イベント率低下など、臨床試験での結果がリアルワールドでも再現されている可能性が示唆されています。日本のNDB研究では、初期治療薬の選択による医療費・低血糖リスクの差なども検証されており、DPP-4阻害薬の安全性やメトホルミンのコスト優位性など興味深い知見が得られています。こうした実臨床データと大規模臨床試験の両面から、ガイドライン推奨は今後もアップデートされていくでしょう。

各薬剤の推奨理由と治療戦略まとめ

  • メトホルミン: 第一選択薬として推奨され続ける最大の理由は、低血糖リスクの低さ・適度な血糖降下作用・体重増加を防ぐ効果・長期的な安全性・経済性など、総合力の高さにあります。初期治療でメトホルミン+生活習慣改善を行い、目標未達なら他薬を追加するという戦略が一般的です。
  • DPP-4阻害薬: アジアで特に広く使われ、食後高血糖やインスリン分泌不全を補うのに有用。低血糖リスクがきわめて小さく、高齢者にも使いやすい。日本では初期から選択される割合が高い。欧米ではメトホルミンに次ぐ第二選択肢の一つ。
  • SGLT2阻害薬: 心腎保護効果と体重減少効果が最大の特徴。心不全や慢性腎臓病合併例では第一優先で併用が推奨される。腎機能低下や脱水リスクに注意が必要だが、適切な患者への使用で予後改善に寄与する。
  • GLP-1受容体作動薬: 注射薬の中で最も推奨度が高く、強力な血糖降下+体重減少+心血管保護が期待できる。インスリンより先に試す戦略が主流になりつつあり、週1回製剤や二重作動薬の登場で今後さらに使用拡大が予想される。
  • インスリン: 2型糖尿病では**「最後の切り札」**的位置付けだが、重症例や初診時から高度の高血糖がある場合は早期導入。近年は「GLP-1受容体作動薬と併用」などにより低血糖や体重増加の懸念を軽減する治療も普及。

参考文献(上記で引用した主な文献・情報源)


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