腰痛の原因、鑑別診断(更新中)
【腰痛の赤信号】
痛み:激痛、夜間に痛みが強い、鎮痛薬が効かない
年齢:18歳以下、50歳以上
持続期間:6週間以上
既往歴:悪性腫瘍、最近の細菌感染症、免疫不全
症状:発熱、悪寒戦慄、寝汗、体重減少
機転:高エネルギー外傷、高齢者の軽い外傷
その他:膀胱直腸障害、サドル型麻痺、会陰部感覚障害、悪化する神経学的所見
【患者に何を聞くか】
Q、発症は突然か?
→血管性疾患、尿路結石
Q、いつ痛むか
安静時の痛み→炎症性脊椎炎
運動時の痛み→リウマチ性多発筋痛症、機械的腰痛、腰部脊柱管狭窄症(歩行時)
咳嗽や排便時の痛み→腰椎ヘルニア
Q、しびれはあるか?
ある→血管性疾患、馬尾症候群、脊髄硬膜外膿瘍、がんの骨転移、腰椎ヘルニア
Q、内服薬は?
ステロイド→圧迫骨折(骨粗しょう症)
Q、既往歴は?
糖尿病→圧迫骨折(骨粗しょう症)、化膿性脊椎炎(免疫力低下)
悪性腫瘍→骨転移
マルファン症候群、高血圧→大動脈解離
Q、普通に歩けるか?
酩酊歩行→腰部脊柱管狭窄症
間欠性跛行→馬尾症候群
【疾患リスト】
血管性疾患(大動脈解離)
リスク因子として動脈硬化、高血圧、マルファン症候群など。
問診:突然発症(発症時何をしていたか答えられる)、痛みの移動(背中から腰の方に移動することが多い)、激痛、下肢痛、しびれ、対麻痺
→血圧の左右差、下肢の冷感
→血液検査(Dダイマー)、造影胸腹部CT(大動脈の横断像)、レントゲン(縦隔陰影の拡大)、脊髄MRI
☆その他の血管性疾患として脊髄梗塞、腎梗塞なども注意。
炎症性脊椎症
問診:40歳以下の発症どういう時に痛むか(安静で増悪、運動で軽快)、朝のこわばり
→Schoberテスト
→CRP、WBCなどの炎症反応、腰椎、仙腸関節のレントゲン、HLAーB27の検査
リウマチ性多発筋痛症
腰痛の他、頚部、肩甲部、臀部、大腿部などの痛みを主訴とする原因不明の疾患。他にも発熱、食欲不振、体重減少などの全身症状も合併する。症状の出現は急速におこる。検査としては、血沈の亢進とCRP上昇を認めるが、リウマトイド因子は陰性。
問診:増悪因子(運動)、朝のこわばり、寝返り打てない、発熱
→両肩挙上困難、首から肩にかけての圧痛
→血液検査(CRP↑、血沈↑、貧血、RF(ー))
腎盂腎炎
問診:発熱、頻尿、排尿時痛
→CVA叩打痛
→尿検査、尿培養、血液培養(高齢者では腎盂腎炎の半数以上が敗血症に移行する)、超音波(左右の腎臓の比較)、CT(腎周囲脂肪織の毛羽立ち)
尿路結石
メタボリックシンドロームの患者に多い
問診:発症経過(突然発症で数時間で軽快する)、発症時間(深夜から明け方に多い)、尿の色(血尿か)
→尿検査、腹部エコー(水腎症の有無)、KUB、単純CT(確定診断)、CVA叩打痛(水腎症を合併すれば)
→NSAIDS。
10mm以下の結石であれば自然排泄期待できるためNSAIDsで痛みを抑えて飲水を促し経過フォロー。
馬尾症候群:腰椎ヘルニアでは時に大きなヘルニアを生じ、馬尾全体を圧迫することがある。馬尾は脊髄終末部にあり、知覚障害、運動障害、間歇性跛行、溢流性尿失禁などの膀胱直腸障害をきたす。
問診:両下肢は動くか(運動麻痺)、排尿障害はないか(膀胱直腸障害)
→下肢の深部腱反射消失、直腸反射消失、サドル型知覚麻痺
→MRI
化膿性脊椎炎:体の他の部位に一時感染巣があり、そこから起炎菌が血行性に脊椎に感染することにより起こる。黄色ブドウ球菌が原因の半数を占める。腰痛と発熱が主な症状であるが、症状の重さは化膿性病巣の大きさによる。
問診:最近感染症になったか(先行する尿路感染)、既往歴(糖尿病など免疫力の低下はないか)
→発熱、心雑音、脊柱圧痛、血液検査(炎症所見)
→血液培養、MRI、レントゲン(椎間の狭小化)
脊髄硬膜外膿瘍
脊髄硬膜の外側に膿瘍が形成され、脊髄を圧迫する疾患。原因菌としてはブドウ球菌が多い。腰痛は持続的で、安静にしていても痛む。感放置すると2ー3日で両下枝麻痺をきたすので、できるだけ早い治療が必要。
問診:いつ痛むか?(安静時も痛む)、発熱やふるえなどの全身症状の有無、下腿の麻痺やしびれなど馬尾症候群の有無(進行すると)
→MRI
悪性腫瘍の骨転移:50歳以上の患者が「1か月以上進行する腰痛」「安静時にも痛む」を訴えたら鑑別に入れたい。特に肺がん、乳がん、前立腺がんに多いが他の進行がんでも起こる。
問診:叩打痛、腰椎可動域制限、神経根症状など非特異的症状、いつ痛むか(慢性の安静時痛)、がんの既往歴(特に肺がん、乳がん、前立腺がん)、体重減少
→腫瘍マーカー(PSA:前立腺がん、AFP:肝細胞癌、CEA:腺癌)、血液検査(ALP、LDH、Ca、総蛋白)、単純レントゲン(winking owlサイン)
☆乳がんの骨転移は治療後5年ほど経ってから生じることもあるのでがん治療後かなり時間が立っていても骨転移の可能性は常に考慮する。
多発性骨髄腫
異型性をもった形質細胞が主に骨髄で増殖することによって発症する全身性腫瘍性疾患。発症は非常にゆっくり。その他の合併症として、Ca値の上昇、腎機能障害、貧血、骨病変が代表的。形質腫瘍細胞は単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)を産生し、Mタンパク血症を引き起こす。
問診:骨痛、下腿浮腫(低アルブミン)、意識消失(高カルシウム血症)
→脱水、浮腫(腎機能低下)
→血液検査(貧血、低アルブミン血症、高カルシウム血症)、レントゲン(骨打ち抜き像:溶骨性骨変化)、骨髄生検
機械的腰痛(非特異的な腰痛)
腰痛の中でもっとも頻度が多い。軟部組織や靱帯など、腰痛の原因がはっきりとしない。動くと痛みが強くなり、安静にすると楽になるという特徴がある。1週間ほどで自然軽快する。
問診:いつ痛いか(動くと痛い、安静で軽快)、随伴症状の有無(なし)
→特に異常な身体所見なし
→安静時痛や随伴症状なければ腰椎レントゲンは必要なし
腰椎ヘルニア
問診:いつ痛むか(咳嗽や排便時など圧がかかるとき)、しびれはないか(坐骨神経痛で腰から足までしびれと痛み)、50歳以下
→SLRテスト、L5-S1領域の感覚、運動障害
圧迫骨折
問診:骨粗しょう症のリスクはないか(閉経、ステロイド内服など)
→骨折部の棘突起圧痛、傍脊柱筋の攣縮
→腰椎レントゲン2方向
腰部脊柱管狭窄症
脊椎にある脊柱管という神経を囲んでいる管が狭窄する疾患。加齢に伴い発生することが多いが、脊椎椎間板ヘルニアや骨粗鬆症が原因となることもある。高齢者に多く、歩行時に増悪し、長く歩くことができない(間欠性はこう)。坂を登るなどして前屈みになると楽になるのが特徴的(脊椎が屈曲するため痛みが緩和されるから)。
問診:加齢(65歳以上)、いつ痛むか(歩行時に増悪、坐位や前屈で軽快)
→酩酊歩行、ロンベルグ試験陽性
→MRI
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