宮入菌(ミヤBM)とビフィズス菌(ラックビー)の比較
概要:
宮入菌(ミヤBM:Clostridium butyricum MIYAIRI 588株)は酪酸菌と呼ばれる芽胞形成菌で、日本では整腸剤として古くから使われています。一方、ラックビー(ビフィズス菌製剤)は主にビフィドバクテリウム属の生菌からなる整腸剤です。両者とも腸内環境を整え、下痢や便通異常の改善を目的に利用されます(jmedj.co.jp)
以下に、慢性下痢への効果、高齢者への有効性、抗生物質関連下痢症(AAD)への効果、適切な用量について比較してまとめます。
慢性下痢における便回数の改善率
- 宮入菌(ミヤBM)の効果: 慢性的な下痢症状(例:過敏性腸症候群の下痢型=IBS-D)に対し、宮入菌は便通回数の減少など有意な改善効果が示されています。200名のIBS-D患者を対象にしたランダム化比較試験では、4週間の宮入菌投与により全般的な症状スコアの改善と生活の質(QOL)の向上がプラセボ群より有意に大きく、便通頻度も有意に減少しましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には、便通回数の減少量は宮入菌群で平均-1.60回(/日)とプラセボ群の-1.09回を上回り、約0.5回/日の差で有意差が認められていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。また、日本での再評価データによれば、宮入菌製剤投与後に下痢症状が改善した患者は約97%にのぼったとの報告もありますpins.japic.or.jp。IBSなどでは便の回数だけでなく腹痛や膨満感の軽減も報告されており、慢性下痢症状全般に有用とされていますpins.japic.or.jp。
- ビフィズス菌(ラックビー)の効果: ビフィズス菌製剤も慢性の下痢に広く用いられており、腸内の発酵を促進して有害菌の増殖を抑えることで整腸作用を発揮しますkegg.jp。日本の臨床報告の集計では、ビフィズス菌製剤による下痢症状の有効率(改善率)は全体で85.3%とされ、成人では81.0%、乳幼児では86.8%が改善していますmedical.kowa.co.jp。特に乳幼児の消化不良による下痢では94.4%という高い改善率が報告されていますmedical.kowa.co.jp。一方、慢性の軟便傾向の患者に対しては有効率が約59%とやや低めというデータもありますpins.japic.or.jp。これらの数字は試験条件によって異なりますが、概括的にビフィズス菌も慢性の下痢や便通異常の改善に有効と考えられています。
ポイント: 両者とも慢性の下痢に対し高い改善率を示します。宮入菌は芽胞形成能により生存しやすく、IBSなどの臨床試験で有効性が実証されています(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。
ビフィズス菌製剤も古くから使用され、有効率80%以上との報告があります(medical.kowa.co.jp)。
大規模な直接比較試験は存在しませんが有効性はいずれも同程度に高いと考えられますjmedj.co.jp。
高齢者に対する有効性
- 有効性の報告: 高齢者では腸内細菌叢の変化や基礎疾患の影響もあり、プロバイオティクスの効果にばらつきが見られます。一般的に整腸剤は高齢者でも安全に使用でき、重篤な副作用は報告されていませんpins.japic.or.jpaafp.org。実際、日本のデータでも宮入菌・ビフィズス菌いずれの整腸剤でも高齢者を含め良好な改善率が得られています(例:ラックビー成人81%有効medical.kowa.co.jp、宮入菌成剤も高齢者で有効例多数pins.japic.or.jp)。また、高齢患者の慢性下痢に宮入菌製剤を投与し、栄養状態や免疫指標の改善を認めたとの報告もあり、腸内環境改善を通じた全身状態への好影響も示唆されていますmdpi.com。
- エビデンスの混在: 一方で、高齢入院患者を対象としたプラセボ対照試験ではプロバイオティクス(乳酸菌+ビフィズス菌混合)の予防効果が認められなかったとの報告もありますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。イギリスで65歳以上の入院患者約3,000例を対象にした大規模試験(PLACIDE試験)では、乳酸菌・ビフィズス菌5種混合剤を21日間投与しても抗生剤関連下痢やクロストリジウム・ディフィシル感染症の発生率はプラセボ群と差がありませんでしたpubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。さらに2016年のメタ解析でも、「65歳超の高齢者ではプロバイオティクスによるAAD予防効果が有意でない」と結論づけられていますfrontiersin.org。このように高齢者では必ずしも顕著な効果が確認できないケースもありますが、菌種や組み合わせによって結果が異なる可能性があります。
- 高齢者への適用: 日本やアジアでは、高齢者の長期療養施設で宮入菌を投与し感染防御や栄養状態を改善できたとの報告があるなどmdpi.com、一定の有効性が示唆されています。また、日本のある研究では酪酸菌(宮入菌)+他の整腸菌(腸球菌や糖化菌)の併用により、高齢手術患者でのクロストリジウム・ディフィシル感染(CDI)の予防に成功した例も報告されていますfrontiersin.org。総じて高齢者にも安全に使用でき、効果が期待できるものの、重症の入院患者などでは効果が限定的な場合もあり、更なる検証が望まれますfrontiersin.orgpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
ポイント: 高齢者でも宮入菌・ビフィズス菌は安全に使用可能で、多くの報告で有効性が示されています。ただし、高齢入院患者を対象にした厳密な試験では効果が見られない場合もあり、効果は個人の健康状態や菌株によって差異があります(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。
必要に応じて他の菌種との併用や十分な投与期間を設けることが推奨されます。
抗生物質関連下痢症(AAD)への効果
- 宮入菌(ミヤBM)の場合: 宮入菌は芽胞を形成するため抗生剤併用下でも生存しやすいという特長がありますjmedj.co.jp。そのため、抗生物質による腸内細菌叢の乱れから生じる下痢(AAD)の予防・改善に有用とされています。小児を対象とした無作為化試験では、肺炎治療で抗生剤を投与中に宮入菌+ビフィズス菌配合製剤(計50億CFU/日)を併用した群でAAD発生率が有意に低下しました(併用群7.8% vs 対照群16.8%、p<0.05)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov。また、日本の報告では小児における各種抗生剤投与時に宮入菌を併用することで、抗生剤起因性下痢の発生が有意に抑制されたとの結果が得られていますpins.japic.or.jp。さらに、動物試験や臨床観察から宮入菌単独よりビフィズス菌との併用の方が効果が高いことも示唆されています。総合すると、宮入菌は抗生剤使用による下痢予防に効果的であり、その効果は投与期間が長いほど高まる可能性があります。
- ビフィズス菌(ラックビー)の場合: ラックビーに含まれるビフィズス菌自体は抗生剤の影響を受けやすいため、抗生剤と併用する際には薬剤耐性株(ラックビーRなど)が用いられますjmedj.co.jp。一般的なビフィズス菌製剤はテトラサイクリン系など一部抗生剤では効果が減弱する可能性があります(実際、ラックビーR散はテトラサイクリン系との併用適応がありませんjmedj.co.jp)。それでもプロバイオティクス全体としてはAADリスクを約半減させる有効性が確立していますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。2012年のメタ解析(82試験・対象11,811例)では、乳酸菌やビフィズス菌を中心としたプロバイオティクス投与によりAAD発生リスクがおよそ42%減少し、プロバイオティクス群の発生率はプラセボの約6割(相対リスク0.58, 95%信頼区間0.50–0.68)だったと報告されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。この効果は小児・成人では認められていますが、高齢者単独では統計的有意差が出ないとの解析もありますfrontiersin.org(上述のようにPLACIDE試験の影響と考えられます)。ビフィズス菌製剤単独のデータとしては大規模RCTが少ないものの、他の乳酸菌等との混合製剤でAADとCDI(C. difficile感染)の予防効果が報告されていますfrontiersin.orgfrontiersin.org。総じて、ビフィズス菌も抗生剤による下痢の予防・緩和に有用であり、特に多種プロバイオティクスを併用した場合に効果が高いとされています。
ポイント: 抗生剤関連下痢の予防にはプロバイオティクスが有効であり、宮入菌・ビフィズス菌ともその役割を果たします。宮入菌は芽胞のおかげで抗生物質併用下でも効果を発揮しやすい(jmedj.co.jp)のが利点で、小児から成人までAAD発生を有意に減らします(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。ビフィズス菌製剤も耐性株を用いることで併用可能で、メタ分析で全体的なAADリスクを半減させています(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)。高齢者では効果が減弱する可能性がありますが、それでも有害性はなく試みる価値があるとされています(aafp.org)。
用量と使用法
- 宮入菌(ミヤBM)の用量: 成人では通常1日3~6錠または1.5~3gを3回に分けて経口投与しますpins.japic.or.jp。1錠中に宮入菌末20mg(芽胞を含む生菌)を含み、2錠で約1×10^7個の生菌数に相当しますpins.japic.or.jp。したがって6錠ではおおよそ3×10^7個以上の菌を摂取できる計算です。ミヤBM細粒剤の場合も同様に、1回0.5~1gを1日3回服用する処方が一般的ですpins.japic.or.jp。臨床試験では例えば1カプセルあたり約6×10^6 CFUの製剤を1日9カプセル(約5×10^7 CFU/日)4週間投与するといった用量設定で有効性が確認されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。急性の下痢には数日の投与で効果が現れる場合もありますが、慢性の腸症状には4週間程度継続投与することで腸内フローラ改善と症状緩和が得られることが多いですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
- ビフィズス菌(ラックビー)の用量: 成人では通常1日3~6gまたは3~6錠を3回に分けて経口投与しますkegg.jp。1錠中にビフィズス菌10mg(生菌)が含まれ、含有菌数は製剤にもよりますが数億~数十億CFU程度と考えられます。ラックビー微粒Nの場合、1g中にビフィズス菌末10mgを含有しており、再評価時の国内試験では1日あたり3~6g(乳幼児では体重に応じ減量)の範囲で有効性が検証されていますmedical.kowa.co.jp。ビフィズス菌製剤も基本的に毎食後など1日3回の分割投与が推奨され、症状に応じて増減可能ですkegg.jp。抗生剤併用時には前述の耐性株製剤(ラックビーRなど)を規定量投与します。いずれの整腸剤も即効性ではなく、継続して服用することで徐々に効果を発揮します。症状改善後も腸内環境維持のためしばらく服用を続けることが推奨されます。
ポイント: 用量は両剤とも1日3回投与が基本です。宮入菌は成人で1日3~6錠(約1.5~3g)(pins.japic.or.jp)、ビフィズス菌は1日3~6錠(3~6g)(kegg.jp)が標準的な範囲になります。宮入菌は芽胞数で数千万~億単位、ビフィズス菌も生菌数で億単位を摂取するイメージです。重大な副作用は報告がなく安全域が広いため、症状に合わせて適宜増減できます(aafp.org)。下痢が続く場合でも指示用量内で調節しつつ、一定期間継続することが大切です。
エビデンスとガイドラインの位置づけ
宮入菌およびビフィズス菌は、日本やアジアで伝統的に使用されてきた整腸生菌製剤であり、多くの臨床研究や経験的知見が蓄積しています。メタアナリシスやガイドラインにおいても、プロバイオティクスは急性下痢、抗生剤関連下痢、過敏性腸症候群などに有効であると高いエビデンスレベルで位置づけられています(aafp.org)。例えば、米国消化器病学会や家族医療分野では「プロバイオティクスはIBSや機能性下痢の腹痛・症状スコアを改善する」と推奨されており(aafp.org)、抗生剤関連下痢やCDI予防にも一定の推奨がなされています(aafp.org)。日本の感染症学会などでも、重篤例を除き整腸剤の併用は下痢症状緩和に有用とされています。総合すると、宮入菌(ミヤBM)とビフィズス菌(ラックビー)は慢性の下痢に対して有効性・安全性が確認されたプロバイオティクスであり、特に腸内フローラの乱れが原因と思われる症例で有益です(pins.japic.or.jp)。患者の年齢や状態に応じて使い分けつつ、必要に応じ併用することも可能です(実際、二剤の併用で相乗効果が得られるとの報告もあります)。今後もさらなる大規模比較試験によるエビデンスの蓄積が望まれますが、現時点でも専門家の推奨に値する有用な整腸剤と言えるでしょう(aafp.org)。
コメント