ステロイドでは種々の副作用が生じうるため、投与前にスクリーニングが必要。
◯病歴・身体所見の確認
・消化性潰瘍や消化管出血の既往
・内服薬の確認、NSAIDSの中止
・高血圧、下腿浮腫、心不全の有無
◯検査
・末梢血検査(白血球分画、MCV、赤沈、CRPなど)
・生化学検査(AST,ALT,ALP,LDH,血糖,IgG,IgM,IgAなど)
・B型肝炎スクリーニング(無症候性キャリア、既感染者にステロイド投与すると劇症化しうる。まずはHBs抗原チェック。
*HBs抗原陰性であればHBs抗体、HBc抗体を測定。どちらかが陽性であればHBV-DNAを1−3ヶ月毎にフォロー。
*HBs抗原陽性であればHBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA測定を測定し早期の拡散アナログ製剤考慮@消化器内科相談
・C型肝炎スクリーニング(HCV抗体)
・糖尿病の有無(血糖値、HbA1c)
・脂質異常症チェック(LDL/HDLコレステロール、中性脂肪)
・膠原病類のチェック(抗核抗体、抗CCP抗体、IgG,IgA,IgM,C3,C4,MPO-ANCA,PR3-ANCAなど。その他必要に応じて)
・感染症の有無(βDグルカン:真菌感)、C7HRP:サイトメガロウイルス)
・胸部レントゲン(結核の潜在性再燃が起こることがあるため。プレドニゾロン15mg/day以上を1ヶ月以上投与するような場合はIGRA(T-SPOT®やクォンティフェロン®)などでもスクリーニングを行うと良い。(T-SPOT,QFTどちらでも良いがステロイド投与後の場合はT-SPOTの方が影響を受けにくい=感度が下がりにくい)
*PSL15mg/dayの1ヶ月以上の投与で優位に結核発病のリスク上昇あり。
*もし潜在性結核であることが判明したらイソニアジドを6−9ヶ月投与する(イソニアジド100mg1回3錠1日1回朝食後)
・体幹CT:CTにて悪性腫瘍や感染症の有無評価。活動性の感染症がある場合はそちらの治療を優先。
・骨密度測定:(腰椎・大腿骨頚部)、胸腰椎X線
・眼科受診(開放隅角緑内障の家族歴、40歳以上の糖尿病、強度近視がありステロイド長期投与が必要な場合は緑内障リスクが有るため開始前にスクリーニング)
・口腔外科受診(ステロイド開始後、骨粗鬆症でビスホスホネート(BP)開始の場合、BP使用中の抜歯は顎骨壊死リスクとなるためステロイド開始前に歯科治療の必要性の有無を評価してもらう)
・NSAIDSの中止(NSAIDSとステロイドの併用は上部消化管出血のリスクになる。やむを得ず使う場合はCOX2阻害薬に変更、もしくはPPIを併用)
*ステロイド単独では上部消化管出血のリスクにはならない。
◯治療開始後、入院でも外来でも次の項目をフォローする
脂質:初期は2−4週間ごと、以降は1−6ヶ月ごと
HbA1c:初期は一ヶ月ごと、以降は1−6ヶ月ごと
胸部レントゲン:潜在性結核感染症疑われる+PSL投与量が多いときは定期フォロー
骨密度・胸腰椎X線:半年〜1年毎+適宜
眼科受診:必要に応じて。ステロイド開始前の眼科受診で何もなければ1年毎など。
◯ステロイドによる副作用の出現タイミング
開始当日:不眠、抑うつ
数日後:血圧上昇
2−3週間後:耐糖能異常、HPA(視床下部-下垂体-副腎系)抑制
1ヶ月後:中心性肥満、易感染性、ミオパチー
数カ月後:骨粗鬆症、紫斑
長期:白内障、緑内障、無血管性骨壊死
*日和見感染はプレドニン20mg以上を1ヶ月以上使用すると発生しうる(T細胞の減少による細胞免疫の低下による)
◯副作用予防策
・胃潰瘍予防(胃潰瘍既往者、NSAIDS使用者、高齢者、ステロイド高用量投与時)
→プロトンポンプ阻害薬(タケプロン、オメプラール等)
◯骨粗鬆症予防(4項目のスコアで合計3点以上で治療介入)
◯既存骨折:なし→0点、あり→7点
◯年齢:50歳未満→0点、50−64歳→2点、65歳以上→4点
◯ステロイド投与量(プレドニン換算mg/day):5点未満→0点、5−7.4→1点、7.5以上→4点
◯腰椎骨密度(%YAM):80以上→0点、70−80→2点、70以上→4点
*ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン参照
→ステロイド3ヶ月以上使用予定のときに骨粗鬆症予防を考える。65歳以上、既存骨折あり、骨密度70%以下のいずれかあれば全例予防適応
ガイドラインで第一選択薬として推奨されるものはビスホスホネート製剤としてアレンドロネート(フォサマック®)やリセドロネート(ベネット®)。
例:アレンドロン酸35mg1回1錠週1回起床時
もしくはリセドロン酸17.5mg1回1錠週1回起床時
これらビスホスホネートが禁忌の場合は活性型ビタミンD3製剤などを検討する。
投与後は少なくとも年に1回は骨密度測定、脊椎レントゲンチェック。
◯ニューモシスチス肺炎の予防(以下の場合リスク有り)
・プレドニン20mg/dayを一ヶ月以上、もしくは他の免疫抑制剤使用
(一般的にPSL20mg/dayでPCPのリスクになると言われるが、ステロイド投与しなくても免疫抑制薬や高サイトカイン療法を施行中もしくはステロイドが20mg/dayまで達していなくても高齢であったり既存の肺疾患のリスク因子があればPCP予防を考慮する)
・PSL0.5mg/kg/day以上、リンパ球減少(<400)、IgG低値(<700)などの条件を満たす時またはその他多発血管炎性肉芽腫症などある場合
→ST合剤(バクタ®)の使用を検討(例:ST合剤錠1回1錠1日1回)
*ST合剤使用時の注意点として:重症薬疹、無顆粒球症、薬剤性血管炎、肝障害。これらはフォロー必要。
◯真菌感染症
深在性真菌症はβDグルカンで評価
口腔咽頭や食道粘膜面の表在カンジダ症に対してはファンギゾンシロップ等で対応。
◯無血管性骨壊死
・PSL20mg/day以上の使用で出現しうる。
・ステロイド使用中に関節痛(特に股関節痛)が出現したらステロイドの影響を鑑別に上げる。
・早期診断にMRIが有用。当然X線より感度が高い。
◯ステロイドミオパチー
・PSL30mg/day以上の使用で出現しうる。
・骨盤周囲〜大腿近位筋のだるさの主訴が多い。進行すると嚥下障害や呼吸筋障害も出現しうる。採血でLDH、尿検査で尿中クレアチン・クレアチニン比率チェック
・対策はステロイドの減量。10mg/day程度まで減量すれば筋力低下は1ヶ月程度で改善する。
参考文献)
・『新・日常診療での薬の選び方・使い方』
・『アウトカムを改善するステロイド治療戦略』
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