PSVTへの対応(memo)
発作性上室頻拍(PSVT:paroxysmal supraventricular tachycardia)
・PSVTとは房室結節や副伝導路などを介するリエントリーによる上室性の頻拍の総称。色んなタイプがある。
・症状は突然発症する動悸、血圧低下が原因でめまいや意識消失も起こる。
・20代など若年に多い、高齢者に少ない。
・疲労、飲酒、運動、ストレスなどで発作は誘発される。
・発作頻度は数年に1回の頻度から月に何度も生じることもあり、発作の持続時間は数分から数時間持続し突然停止するのが特徴。
・心房細動や心房粗動のように心不全になることは稀。PSVTになってから何日も放置したりしない限り心不全にはならない。よっぽど心機能低下してない限り焦る必要はない。
・心電図上の特徴はnarrow QRS、P波なし(QRSに埋もれるため)、 regular tachycardia(140-220回/ 分)
【PSVT心電図の一例】
画像参照:https://nurseful.jp/career/nursefulshikkanbetsu/cardiology/section_1_03_01/
ちなみに、時々間違われる心房粗動の心電図は以下の通り
・頻脈を抑えるためには以下の迷走神経刺激法を試す。
1、バルサルバ手技:吸気時に息をこらえる。すると胸腔内圧が上昇し、圧受容体が刺激されて迷走神経刺激となり脈が下がる。
2,頸動脈圧迫法:頸動脈を圧迫することで、圧受容体が刺激され、迷走神経が刺激されて房室伝導が抑制される。結果脈拍が下がる。が、動脈硬化の強そうな患者でやると脳への血流が遮断されて失神しうるので注意。頸動脈の血管雑音がないか確認しておく。
・ 迷走神経刺激法で効果なければ・・・
選択肢その1:Caブロッカー:ベラパミル(ワソラン®)
(どんな原因のPSVTでも基本的に第一選択はワソラン)
容量・方法:ワソラン5mg/2ml注を生理食塩水10mlに溶解して5分かけて緩徐に経静脈投与。最大15mgまで。
【メリット】
・作用が用量依存的で効果を予想しやすい。
・多くのPSVTは房室結節をリエントリー回路に含むので大体の場合効果がある。
・ATP製剤と異なり持続時間が長い。結局ワソランを使うことになる。
【デメリット】
・血管拡張作用があるため収縮期血圧90以下の場合は使いづらい。
・が、多くの健常人では血圧が低めでもワソランをゆっくり投与すればワソラン10mgまでは大丈夫。ワソラン5mg×2Aを生理食塩水20mlに溶かして そのうちの半分を5分かけて投与する。もし頻脈が途中で停止すれば無理して全部いれる必要はない。
☆もしワソランをゆっくり入れたけど効果が無かったら…
→本当にPSVTだったのか?心房頻拍や房室伝導比2:1の心房粗動などの可能性はないか??
選択肢その2:アデホス®(ATP急速静注)
方法・容量:アデホス®10mg/2mlを急速静注。投与量は0.1mg/kgからスタートし最大0.3mg/kgまで。生理食塩水10mlでフラッシュ。
PSVTを強く疑っているにも関わらずワソランが効かない時に用いる。ワソラン後、時間を空けずに用いても良い。またワソランは低血圧患者には使いにくいのでそのような場合にもアデホスを最初から用いても良い。
ATPもワソラン同様房室伝導をブロックし、房室結節をリエントリーに含む頻拍は全て停止させられる。代謝が早いために急速静注しなければ意味がない。生理食塩水に希釈して5mlとして側管からフラッシュで入れる。その後、静脈にちゃんと入るように生理食塩水フラッシュを忘れずに。投与量は0.1mg/kgで開始で0.3mg/kgが上限で体重50kgの人なら15mgまで。
【デメリット】
・半減期が1分程度と短いのですぐに効果が切れる。PSVTの治療というよりかは診断目的。
・半減期が短いものの、まれに洞停止や房室ブロックが遷延して一時的に心臓マッサージが必要になることもないこともない。容量には注意。
・気管支攣縮や冠動脈攣縮を誘発する。喘息患者や虚血性心疾患、低心機能ある患者には使わない。また、ATP急速静注後に10−20秒の胸部不快感が出現する。事前に説明必要。
☆ATPとワソランどちらが良いのか?
・PSVTの治療効果ではアデホス90.8%;ワソラン89.9%と同等。
・副作用頻度ではATP16.7%〜76% VSワソラン0〜9.9%とワソランのほうが少ない
(アデノシンの副作用として胸部不快感、呼吸苦、頭痛、紅潮、悪心。ワソランの副作用として低血圧)
・効果発現までの時間:アデホス数十秒、ワソラン数分〜数時間
・ワソランは効果発現まで時間が掛かるが、洞調律復帰後の再発予防効果も期待できる。
◯帰宅時の処方:ベラパミル80mg+プロプラノロール20mg
頻脈が治まっていれば帰宅可能。帰宅時の説明としては、発作が起こった時は迷走神経刺激法を試みてもらう。それでも発作が続いている場合は頓服でベラパミル+プロプラノロールを同時に内服してもらう。発作を繰り返してQOLが下がっているような場合は、カテーテルアブレーションも考慮。
予防)
ワソランやβ遮断薬は房室伝導を抑制して殆どのPSVTに有効(どんなPSVTであれ)。
ワソランは血圧に注意すれば6錠/dayぐらいまでは増やせる(EFが保たれていれば)。
Ⅰ群抗不整脈薬も用いられることがあるが一般的にはワソランやβ遮断薬のほうが安全。
ただし、WPW症候群に伴うPSVTであればワソランの使用で副伝導路を経由した伝導が主になり伝導効率が悪くなって副伝導路経由の興奮頻度がます。WPWの時はⅠ群抗不整脈薬が良い適応。
参考)
・内科病棟・ERトラブルシューティング
・不整脈に困ったら
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